今回は、実際に関わった相続のうち、比較的スムーズに進んだ事例をご紹介します。
父親:12年前に他界
母親:今回の被相続人
長男:生前は母親と同居、妻と子供2人
長女:長男の妹。夫と子供2人
①遺言書
この事例の被相続人(亡くなった方)は、父親の没後、実家で一人暮らしをしていた母親でした。
相続手続きを行うために最初にやることは、遺言書を探すことです。
遺言書には、公証役場が関与している可能性があるので、母親の住所地に近い公証役場に問い合わせました。
公正証書遺言は原本が公証役場にあり、
秘密証書遺言は公証役場が遺言の存在を証明してくれます。
公証役場の方は、自身の役場内とネットワークを使って他の公証役場も探してくれましたが、該当する遺言書はありません。
残りの可能性があるのは自筆証書遺言なので、実家を中心に探しました。
母親の部屋にある引き出しの中や仏壇付近を探索。
通帳を手掛かりに、銀行の貸金庫や信託銀行に問い合わせもしました。
また、届いていた手紙を参考に、友人・知人にも問い合わせています。
結果として、母親が作成した遺言書は見つかりませんでした。
②法定相続人
遺言が見つからなかったので、遺産分割協議で遺産を分ける事になります。
遺産分割協議は、法定相続人の全員で行う必要があるので、法定相続人を確定させます。
今回のケースでは、被相続人の夫(父親)が12年前に他界しているので、相続人は長男と長女と思われるでしょう。
でもここで、母親の戸籍謄本を確認する必要があります。
異父兄弟の存在など、これまで知らされていない事情があるかもしれないからです。
戸籍謄本の正式名称は、
戸籍全部事項証明書です。戸籍のある市町村役場で入手できます。
このケースでは特殊な事情は出てこなかったので、法定相続人は長男と長女となりました。
【法定相続人】
長男
長女
(計)2名
③相続財産
法定相続人が確定したら、次に相続財産を確定させます。
ハッキリしているのは、長男家族が住んでいる実家の土地と建物。
土地は路線価方式で計算して、2,800万円。
建物は固定資産税評価証明書より、450万円です。
そして、2つの銀行に合計で400万円の預金がありました。
指輪など貴金属は約50万円です。
相続財産は合計で、3,700万円となりました。
【相続財産】
土地 2,800万円
建物 450万円
預金 400万円
貴金属 50万円
(合計)3,700万円
ちなみに相続税の基礎控除額は、
3,000万円+600万円×法定相続人の数
なので、3,000万円+600万円×2人=4,200万円
基礎控除額 4,200万円>相続財産合計 3,700万円
となるので、このケースで相続税はかかりません。
④遺産分割協議
法定相続分は、3,700万円÷2=1,850万円ずつです。
長男家族は、実家に長年住んでおり、今さら他に引っ越そうとは思いません。
そうは言っても、相続財産のほとんどは実家の土地建物なので、長男が実家を取ってしまうと、不公平になってしまいます。
- 長男…土地+建物 3,250万円
- 長女…預金+貴金属 450万円
長男家族は、父親と母親の介護を合計2年間やってきているので、そこは長女も認めているところです。
そこで、その分を「寄与分」として、年間200万円×2年=400万円を長男に振り替えることにしました。
寄与分とは、被相続人の財産形成に貢献したり、療養看護に努めるなど、何らかの貢献をしてきた相続人と他の相続人との公平さを図るために設けられた制度
- 長男…1,850万円+400万円=2,250万円
- 長女…1,850万円-400万円=1,450万円
そして実際に受け取る財産との差額1,000万円を、長男から長女へ「代償金」として支払うことで決着しました。
代償金とは、法定相続分を超える遺産を取得した相続人が、他の相続人に対して、公平さを図るために支払われる金銭のこと
- 長男…3,250万円-400万円-1,000万円=1,850万円
- 長女… 450万円+400万円+1,000万円=1,850万円
長男は自分の預金を取り崩して、長女に1,000万円を振り込みました。
そして、実家の土地建物は、長男名義へ登記を変更しています。
◆まとめ
という訳で今回は、実家を相続した兄が、妹に対して代償金を支払った相続の事例をご紹介しました。
質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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